途絶えかけた、玉鋼
皆様は、”たたら吹き”という言葉を耳にしたことはありますか?
宮崎駿監督作品『もののけ姫』に登場する”たたら場”ならば、ピンと来るかもしれませんね。
その”たたら場”で生み出されるのが玉鋼です。
玉鋼は極めて純度の高い鉄で、刀の原材料となります。
現代では、刀鍛冶にとって、なくてはならない存在であり、刀鍛冶しか入手することが出来ません。
”たたら吹き”は1300年の歴史を持つ、日本古来の製鉄方法で、現在島根県の奥出雲で
毎年1~2月の間に3回ほど操業されます。
明治維新後、ヨーロッパから入ってきた、大量生産できる製鉄方法により、たたら吹きは衰退の一途を辿り、戦後にはすっかり途絶えてしまいました。
「それでは日本刀の世界が滅びてしまう」と危惧した当時の刀鍛冶や財団法人 日本美術刀剣保存協会の方々の尽力により、1977年に『日刀保たたら』として30年ぶりに復活しました。
今では、選定保存技術として認定された文化財として保護されています。
奥が深すぎる、たたら吹き
たたら吹きのことを知れば知るほど奥が深く、ものすごい集中力と労力、すべての作業工程に向き合う誠実さや忍耐のいる作業だと感じました。
たたら吹きを行なうにあたって、木炭の準備(すべて手作りで、適した形に自分たちで切ります)、炉を作るための土作り(こちらも自分たちで捏ねて、成形します)、炉を立てる前に炉の底面を炭で十分暖める作業、炉を立てる作業など、たたら吹きを行なう前にも大変な作業があります。
個人的に驚きだったことは、地上に見えている炉の下に4mもの地下構造があることです。
この地下構造は、「床釣」と呼ばれており、砕石、砂利、真砂土を順番に敷き詰めた上に粘土の層を作ることにより、断熱や防湿、地下水を最下層の排水溝に流す役割を担っています。
(詳しくは、鉄の道文化圏推進協議会事務局さまのサイトにありますので、もっと知りたい方はこちらをご参照下さい。)
“村下“と呼ばれる、たたら吹きを行なう職人の中でも一番の熟練者が釜土・砂鉄・木炭の吟味と選定をし、たたら吹きの全てを取り仕切り、炎や炉内の状況、温度の具合、タイミングを見計らって、砂鉄と木炭を30分置きに入れていき、三日三晩火を絶やすことなく、燃やし続けることにより、”鉧”と呼ばれる塊が炉内で精製されます。
その鉧の一部が刀の原材料となる、玉鋼です。
砂鉄10トンから、鉧の状態で約3トンに減り、その中でも良質の玉鋼は約1トンほどになってしまいます。
最新の科学技術でも解明できない!
現代の最新の科学技術でも、たたら吹きにより玉鋼を得る技術の再現は不可能であり、炉内でどのような機序で砂鉄や木炭と釜土が反応し、玉鋼が精製されるのか解明できないようで、未だに神秘のヴェールに包まれています。
たたら吹きで生み出された”鉧(鉄の母)”という漢字を見ても、その神秘性が生物の”出産”とも繋がり、玉鋼は鉧の赤ちゃんでもあり、村下や村下を支える養成員の皆様の汗と努力の結晶によって誕生した赤ちゃんなのだと思うと、愛おしさが増します。
また、刀も玉鋼も、五行(火・水・土・金・木)の自然の要素を全て使って生み出されているパワーアイテムだと思っております。
これらに加えて、製作者の情熱と愛、先人から脈々と受け継がれて来た、叡智や技術が込められています。
皆様にも是非、「自然界のエネルギー」と「人類の叡智と情熱」が結集した玉鋼と刀を手に取っていただけたら、嬉しいです。
長々と綴ってしまいましたが、最後まで読んで下さり、誠にありがとう御座います。